■大学生に勉強させよ…対策の大学に財政優遇案

(読売新聞 - 03月07日 18:18)
大学生の勉強時間を増やせ――。

 中央教育審議会文部科学相の諮問機関)の大学分科会大学教育部会は7日、学生の勉強時間を調べたり、勉強時間を増やす方策を講じたりした大学を、財政面で優遇するべきとする素案をまとめた。勉強しない学生を放置する大学に改善を促す狙い。大学分科会の審議を経て、文科省に答申される予定で、同省は2013年度にも実施する方針。大学生を勉強させるために、とうとう国が尻をたたく。
 日本の大学生は国際比較でも勉強時間が短いとされ、大学教育部会は、「日本の学生が主体的に勉強する時間は1日に講義を含めて4・6時間」とするデータをもとに、「必要時間の半分程度」と分析した。そして、このことが大学の学部教育への国民や企業からの評価が低い要因だとしている。
 素案では、こうした学生の評価を覆してグローバル化時代に対応できる能力を育成するために、大学に対し、学生の知性を鍛える課題解決型の授業の導入など、質の高い教育に転換するよう求めている。

そもそも大学教育の目的は何なのか?
こういったところから再確認しなければなりません。

学校教育法第83条 
1 大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。

2 大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。

なるほど…

2項の「その成果を広く社会提供」という点では各大学ともレベルの差はあるとはいえども産業や行政へ広く研究成果を発信することや、共同研究・共同機関…中には各種諮問機関となる場合もあり…目的を果たしている事と思います。

大学での研究やなによりも研究者を育成する事は、程度の高い大学であればあるほどおそらくできていることなのでしょう。これは明治以降ずっと変わらない大学の一面です。

問題は1項にある「知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」ろいうことです。おそらく「展開させる」主体は大学卒業者であり、産業社会や共同体的社会(政治・自治等で生活の場に反映させるなど)に展開させる事を意図しているかと思います。

まあ「大学卒業者が社会の牽引車となりより良き社会を創る」事を意図しているのかもしれません。

これに多くの人は違和感を感じてしまいます。
非大学卒業者からは「何をいってんのや?おもろいのぉ…何かの冗談け?」といわれる事は残念ながら少なくは無いでしょう(言わないまでも)。

現在、労働現場や社会生活の中で感じられる「大学卒業者ならではの歓心する働き」が感じられないからでありましょう。

ましてや、大学卒業者の約4割近くが、産業社会から「使い物になりそうもないからいらないよ」と言われています。たとえ構造的不況・低成長期であるとはいってもそれは言い訳にもなりません。

さて、文部科学省はこのような傾向を憂いての対策として今回の「案」を考えたのでしょうか…

文部科学省のHPに、中央教育審議会の大学教育部会の今回の答申案作成にいたる経緯が述べられています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/giji_list/index.htm

その中の第5回審議会での配布資料に「現在の大学教育の3つの問題点」というものがあります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2011/09/01/1310371_3.pdf

1.学生の問題 − 勉強していない

2.教育の問題点 − 密度が低い
「授業の数は多い・教員が個々の授業にかける時間が少ない・自分で学習する時間が少ない」ということから…
授業の密度が低い
体系的な知識の修得が不完全
教育成果の実感が生じない
という問題があるというのです。

3.大学・高等教育システムの問題点 − 革新が生じない
特に「社会からのフィードバック」が機能不全になっている(大学側に受け止める能力が無い?)

この審議会の主要テーマは「学士力」を如何につけるか…というテーマなのですが、まさにその「学士力」が低下しているかという事が(審議会では何も触れてはいませんが、おそらく先の「就職率の低下」や各大学での学生の観察などから十分審議委員は認識しているのでしょう…)問題意識となっているのです。

さてこの「学士力」とはいったい彼らはどのように定義しているのでしょうか…
〔学士力に関する主な内容〕
1. 知識・理解(文化,社会,自然 等)
2. 汎用的技能(コミュニケーションスキル,数量的スキル,問題解決能力等)
3. 態度・志向性(自己管理力,チームワーク,倫理観,社会的責任等)
4. 総合的な学習経験と創造的思考力
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/siryo/attach/1247211.htm

これは専門分野は別として、共通して大学卒業者(学士)が持たねばならない能力のことです。先の「学校教育法」で言われる「目的」を少し詳しく述べたものです。

勿論、大学卒業者の中にこの「学士力」を持つ方々も多いですが、そうでない方々も多くおられるようにも思います。

また、高校卒業・専門学校卒業であっても十分にこの能力を持っている…というより持っていなければ労働現場でまともに働く事はおそらくできないのではないか…と思える能力です。

これはいったいどういうことでしょうか?
いったい大学教育とはなんなのでしょうか?
大学に行くという事で何か特別な能力は得られるのでしょうか?

この問題は引き続き明日も考えたいと思います。